見出し画像

CTOは手段を問わずにコミットせよ - キャディ / hokan / noteのCTOが考える創業期の役割と働き

CTOとは何をするべき人なのか?どんな役割で動くべきなのか?

創業期のスタートアップでは、リソースもお金も時間もありません。その状態で事業をグロースさせていくために、CTOは何をすべきなのでしょうか。経営という答えなき道のりの中で、CTOはテクノロジーを活かした適切な意思決定をし、事業を成功に導く必要があります。

そんな創業期のCTOの役割について、キャディ / hokan / noteの3社のCTOが集まってセッションを行いました。

セッションの中で、「CTOは手段を問わずになんでもする役割」「自分で本番コードは書かない」「不完全な状態で意思決定していくのが経営」など、それぞれの経験則からそれぞれのCTOとしての働き方や姿勢が見えてきました。

司会:Sansan株式会社 CTO 藤倉成太
出演者1:キャディ株式会社 CTO 小橋昭文
出演者3:株式会社hokan CTO 横塚出

CTOとは、手段を問わずになんでもやる人

Sansan 藤倉:
本日はキャディ、hokan、noteの3社のCTOに集まっていただき、「スタートアップ・創業期CTOの役割」について話していきたいと思います。まずは、今回のテーマに沿って創業期のCTOの役割やみなさんが考えるCTO像について教えてください。

キャディ 小橋:
私は創業期のCTOという名前はただのラベルだと思っています。キャディは社員2名で始まったため、役職に関係なく全員が会社を成功させるために動いていました。「CTOだから」という業務はほとんどありません。会社のフェーズが変わってくれば責任の分界点や分業のタイミングは訪れますが、創業期のCTOはなんでもやるべきかなと。あえて言うなら、テクノロジーという武器を活かして会社の成功に常にコミットしていくのが役割です。

hokan 横塚 :
小橋さんの経験と似ていて、hokanも3人でスタートしました。CTOとして働くのは初めてだったので、「CTOの役割」は私も悩みました。創業期はとにかく会社の成功のためになんでもやるという状態で。事業のフェーズが進んでいくうえで、他社を参考にしながら権限の移乗などを進めていった形です。今も昔も変わっていないのは、お客様のために最善を尽くしてコミットしていくことですね。

note 今:
CTOやCFOのようにC◯Oの人たちは、「会社を良い感じにしてね」と言われているはずです(笑)
これらの役職を任された人たちは手段を問わずになんでもやるべきで、その中でもCTOは技術でプロダクトを支えていくのが役割です。弊社の創業期で言えば、CEOやCXOのアイディアを結晶化することに注力しました。CEOもCXOもクリエイタータイプでやりたいことが山ほどあるうえにセンスもいいので、そこにコミットすれば間違いないかなと。

左から、Sansan 藤倉成太 / note 今雄一 / hokan横塚出 / キャディ小橋昭文

Sansan 藤倉:
私の経験も今さんに近いかもしれません。Sansanもつくりたいものやアイディアがどんどんでてくる会社なので、それらをどれだけエグゼキュートできるかに苦戦しました。
お二人はどうですか?

hokan 横塚:
僕も同じタイプですね。周りのアイディアをどう形にして実行するかに力を注いでいます。

note 今:
小橋さんは自分でやりたいことが多そうなタイプに見えます(笑)

キャディ 小橋:
自我が出てきてしまいますね(笑)
スタートアップのCTOには、作りたい世の中や変えたい業界があって、それらを解決するためのアイディアや仮説を持っているはずです。我々も仮説を立てて→実行して→失敗して……の繰り返しで少しずつ進んできました。

ただ、CTOであるからには、テクノロジーが適切なのかを意思決定することも大事な役割です。「仮説に沿ってつくりたいものをつくる」という気持ちもスタートアップでは重要ですが、レバレッジが効くかどうかなど自分を疑う気持ちも持つべきかなと。

Sansan 藤倉:
仮説を実行して常にコミットしていくのは大事ですね。私は創業者ではないし、途中から参画した1エンジニアだったのですが、自分がマネジメント側になってからは、「あの案件どうなったんだろう?」と経営から聞かれることが多くなりました。経営としては機能をデリバリーしなければ始まらないなと。みなさんの創業期はどうでしたか?

hokan 横塚:
創業期に関わらず、やはり日々デリバリーしなければと思っていますね。

note 今:
今も昔もそこは変わらないですね。あとは、デリバリーのしやすさを工夫するのもポイントかなと思っています。スタートアップではエンジニアが0人のこともありえるし、CEOがテックに詳しくないことも考えられます。そういったときにCTOが最初の技術を決めるのは一つの分岐点になるかなと。極論を言えば、自分たちで創る必要がない場合もあって、「Shopifyで運用する」という選択肢をとる可能性もあると思います。

Sansan 藤倉:
そうですね、そこはまさにCTO次第ですね。ノーコードで事業を展開する手もありますし、創業期からマイクロサービスで開発していく選択もあるかもしれません。自分たちの会社にとって良い未来に近づくためにどうするかを意思決定し、それを全員に説得していくのがCTOの役割かなと。

キャディ 小橋:
テクノロジーの選択についても幅がありますよね。プロダクトだけではなく、Google Workspaceの運用だったり権限の割り振りだったりとか。自社のデータモデリングをどうするかも難しい問題です。本来であればCIOがやるべきですが、スタートアップは常に人手不足。適正がある人がいなければCTOがやるしかない。

note 今:
社内のデータモデリングはCTOがやりがちですよね。CTOあるあるだと思います。

Sansan 藤倉:
オフィスのWi-Fiのネットワーク設計もやりがちですね。

キャディ 小橋:
Wi-Fiの機器どうする?と相談されることもよくあります(笑)

hokan 横塚:
社内整備をする流れで、コーポレート本部の役員をやっていた時期もありました。コーポレートITの領域から請求や社内DXもやったりとか。

note 今:
CTOは技術領域だけを管理すればいいわけではないので、オープンマインドで対応する必要はありそうですね。なんでもやりますという心構え。

Sansan 藤倉:
やはり、最初に話題にあがった「手段を問わずなんでもやる」という姿勢が、CTOのベースにはあるのかもしれませんね。

CTOはコードを書くべきか?

Sansan 藤倉:
​​ここまで抽象的なCTO像について話してきましたが、ここからさらに解像度を上げていきたいと思います。それぞれが実際に行なっている業務について聞かせてください。

キャディ小橋:
ざっくりした話になってしまいますが、最近では自分の意思決定を強化したり、社内に周知していくことに力を入れています。現状でキャディは90〜100人のエンジニアがいて、組織が平行して走っている状態です。「技術スタックをどうするか?」「開発者の生産性をどうあげるのか?」などをしっかり考えていくフェーズなのかなと。それらに対する私の意思決定力を高めている最中です。

hokan 横塚:
私は新サービスの立ち上げに週2くらい費やしていて、その他はマネジメント業務を行っています。方向性のすり合わせや生産性をあげるためのモニタリングチェック、リーダーとの1on1などが主な業務になっていますね。会社のフェーズが進んでチームが増えていくと、生産性や開発者体験が損なわれることがあるため、そこを担保できるようにしていきたいなと。

note 今:
横塚さんは自分でプログラムを書いていますか?

hokan 横塚:
今年はちょこっと書くようになりましたね。今さんはゴリゴリ書いているイメージがあります(笑)

note 今:
僕は書くことが多いですね。あまりよくないなとは思いつつ。

Sansan 藤倉:
コードを自分で書くかどうかもCTOによりますよね。書く人にも書かない人にもこだわりやポリシーがありますし。私はもう7〜8年は本番のコードは書いていませんが、書かないことを明確に決めたわけではありません。自分のキャラクター的にレバレッジが効く方に自然と進んでいった感じがします。
小橋さんはコードを書いていますか?

キャディ 小橋:
負債化したものを回収するという意味では少しありますね。瞬発力でなんとかしたものを自分で直すようなこととか。ですが、新しい本番のコードを書くのは避けています。僕がプロダクトを作っても運用は1人ではできないし、休日にコードを書いて投げるのもあまり健全ではないかなと。

note 今:
経験則ですが、プロトタイプやモックをつくるのはCTOが担当しがちな気がします。機械学習が流行ったからやってみるとか、検索機能が遅いから新しいロジックを試してみるとか。そこでフィジビリがとれたらメンバーに渡すような流れですね。

hokan 横塚:
プロトタイプを作ってみないと読めないことも多いですからね。

Sansan 藤倉:
開発という行為自体が投資に近いところがありますからね、世の中に出してみないと結果がわからない。さらに技術的なフィジビリになってしまうと、投資と呼べるのかすらも判断が難しくて基準も曖昧。現場のメンバーに渡しづらいですよね。

note 今:
「このツールが良い感じか試してみて」っていっても「良い感じってなに?」ってなりますしね(笑)

間違いがない意思決定は、意思決定ではない

Sansan 藤倉:
エンジニアとして働く上で開発者体験は大事だと考えているので、みなさんが創業期のエンジニアの開発者体験を高めるためにどんな施策をしたのかお聞きしていきます。テーマが少し答えづらいと思うので、まずは私の事例から。

私の場合は、開発者体験をあげる予算をとるためにストーリーをきちんと考えるようにしました。エンジニアが働きやすい環境にするためには、当然ながらお金がかかります。ただ、開発者体験を高めるメリットを理解してもらうのは難しい問題です。そこを説得するのもCTOの役割だと思っています。

例えば、ボタン1つで開発環境が整う状態であれば、入社してすぐに仕事に取り掛かることができるため、入社後のオーバーヘッドを低くすることができます。こういったストーリーが説明できるようになると予算がとりやすくなるかなと。これは簡単な例ですが、私はコツを掴むまでに時間がかかりました。

hokan 横塚:
働くエンジニアにはよりよい開発環境を提供していきたいですよね。エンジニアがコードを書いたりアーキテクチャを考えたりする時間を100%にできればいいなと。hokanではエンジニアの作業を定量的に図るようにしていて、それをもとに改善を行なっています。あとは、創業期からすべて取り組むかはわかりませんが、CI/CDのような当たり前の開発環境は整えていきたいですね。

Sansan 藤倉:
開発環境などはどこまで整備するかが難しい問題ですよね。人数が少ない段階ではマニュアルを読めばデプロイできるので自動化の必要性が薄い。ただ、組織が大きくなると特定の人しかできない作業があると困るし、ミスも起きやすくなります。スケールは意識するべきなのですが、創業期ではやらない判断をすることも一つの選択かなと。

note 今:
私もnoteリリース時はスケールのことはあまり考えていませんでした。インフラはherokuで運用していく予定で、デプロイも手動でした。ただ、やっぱり人が増えてくると体験が損なわれていくため、ある程度のルールは敷いていく必要はあるなと感じていました。そのルールをどう決めるのかはセンスが問われる部分ですね。ルールメイキングが開発者体験に繋がる実感があります。

キャディ 小橋:
そうですね。開発ルールなどは運用が始まって、動くものができて、人が増えてから考えがちですよね。私はもともとWeb系ではないので、創業期は正しい意思決定ができず、メンバーと探索しながら進めていきました。良くも悪くも是正しながらというか。

Sansan 藤倉:
開発者体験の別視点で言えば、エンジニアには学習の機会を多くもってもらいたいと私は考えています。学習支援が会社からあればいいのですが、「エンジニアが勉強して成長すれば開発が良いものになる」ことを証明するのは難しいですよね。「採用競争力のためです」「このままだとエンジニアが採れません」という理由にしてしまえば、OKはもらえるのですが(笑)

キャディ 小橋:
理由として間違ってはいませんからね(笑)

Sansan 藤倉:
「開発者体験をあげる」こと自体に意味を肉付けしていくのが難しいなと感じますね

hokan 横塚:
会社のカルチャーも大事ですよね。創業期から振り返ってみると、「カルチャーとして開発者体験に投資していく」という姿勢をもっと根付かせていくべきだったなと。

キャディ 小橋:
正解は誰にもわからないですからね。不完全な状態で意思決定をしていくのが経営だと思っています。データドリブンといいながらデータが3割しかないみたいなこともありますし。CTOとして最後は「えいや!」で決める責任は持つべきで、「こうあるべきだ!」という自我をだす瞬間も必要です。自我を出しすぎると怒られるんですが(笑)

Sansan 藤倉:
仮説や理想などふわっとしたことを進めていき、結果がでなかったら謝って引っ込めるくらいの強い意志は持っていた方がいいのかもしれません。スタートアップは失敗を繰り返すことで先に進めるものです。間違いがない意思決定は意思決定とは言わないかなと。

hokan 横塚:
私事ですが、開発者体験を高める新しい挑戦として、エンジニアに特化したリスク保険を提供できないかなと事業として考えています。保険業界に身を置いている立場として、保険でエンジニアが働きやすくなるようにできないかなと。

note 今:
長く働いていると目とか腰とか悪くなってきますからね

Sansan 藤倉:
hokanさんならではの体験提供ですね。おもしろい。

最後に、これからスタートアップに挑戦するみなさんへ

Sansan 藤倉:
では、最後にみなさんから一言ずつ、創業期のCTOに向けて一言お願いします。

note 今:
個人的には、スタートアップのCTOに挑戦するのは経験としておすすめです。ただ、全部自分でやろうとは思わないでください。「テック」「組織」「コミュニケーション」など、自分の適正がどこにあるかを見極めてください。自分の能力がわかったうえで、権限を移譲する体制態勢づくりをしていきましょう。自分がそこで苦しんできたので。全員で会社を最適化できるスタートアップチームを作れるのがいいのかなと。

hokan 横塚:
私自身がエンジニアとして働いていたときに、CTOに漠然とした憧れがありました。そのときから今でも言えることですが、「CTOはそもそも何をする人なのか」は答えがでない部分があります。ただ、一つ言えることは、会社のためにどんなことも行い、事業の弱い部分を埋めていくのがCTOの仕事かなと思っています。自分もまだまだ経験は浅いですが、創業期のCTOのみなさんに還元できることがあればといいなと。一緒に頑張っていきましょう。

キャディ 小橋:
創業して5年ちょっとですけど、振り返ってみると多様なメンバーに助けられてきたなと実感します。経営や技術など様々な観点の強いスキルをもった人たちに恵まれました。その経験則で言えば、創業期は多種多様な仲間を集めて、カバレッジを広げることが大事かなと。最初に言ったとおり、CTOという名前はラベルでしかありません。特に創業期は会社のやりたい世界をつくっていくために、CTOはなんでも挑戦してコミットしていくべきです。これから創業するスタートアップのCTOの方々を私も応援したいと思っています。

※ 本記事は日本CTO協会主催のDeveloper eXperience Day 2023のセッションの一部を文字起こしした内容になります

▼ログミーでも同イベントの記事を公開中

▼noteの記事がさらに読みたい方はこちら


note社で働くことに興味がある方は、ぜひカジュアル面談からご応募ください