協賛を止めるな! - CTOが明かす、協賛の意義と目的とは?
技術イベントへの協賛は、企業の名前をアピールするだけの場ではありません。
協賛を通じた技術コミュニティの応援、他社エンジニアとの交流、社内コミュニケーション、技術スタックのPR、採用……など多数の目的を抱えています。
この記事では、協賛がブランディングを超えた重要な戦略であることをnote株式会社と株式会社HelpfeelのCTOが深く語り合いました。協賛イベントの選び方や社内で理解を得る方法に始まり、「採用が止まったからと言って会社が傾いたわけではない」という経営層ならではの話題まで多岐に渡りました。
なぜ多くの企業が技術イベントに投資をするのか?その背後にある深い理由と戦略を、CTOの対話から解き明かします。
※ こちらの記事はYAPC::Hiroshima 2024のランチセッションのトークを再編した内容です。音声は今出川FMで公開中。
登場人物紹介
登壇者
司会進行
協賛イベントをすべてリスト化した
– まず、両社がどのようなイベントに協賛予定なのか教えていただけますか?
秋山:
大きく3つのカテゴリーに分かれます。『技術カンファレンス』、『ハッカソン型開発イベント』、そして『学会の技術イベント』ですね。これらが主な軸となっています。ただ、これらの特定イベントに絞って協賛しているわけではありません。見込みがあるイベントがあれば積極的に協賛している状況です。
今:
弊社の場合、使用している技術スタックとの親和性が高いカンファレンスを優先しています。例えばRubyやPythonなどですね。大規模なイベントにはスポンサーとして参加し、他にもチャンスがあれば積極的に関わっていく方針です。
秋山:
今回、YAPCに初めて協賛されるとのことですが、スポンサーになるきっかけは何だったのでしょうか?
今:
昨年、技術カンファレンスやオフ会などをすべてリストアップし、それをもとに検討を進めてきました。その過程で「このイベントにはまだ参加したことがない」「これまで検討してこなかったけど、参加すべきでは?」という意見が出てきました。その中でYAPCにも注目し、「今年は協賛してみて、現地で雰囲気を掴んでくるべきだ」という結論に至りました。
秋山:
そのリスト、後でこっそり見せてくださいね(笑)
イベントの雰囲気を視察して良ければ、今後も継続して協賛していくつもりですか?
今:
はい、そうですね。継続的にスポンサーとして支援していくことが重要だと考えています。可能であれば、ぜひ継続的に関わっていきたいです。
「技術カンファレンスへの協賛」を会社に納得してもらう方法
秋山:
スポンサー協賛には、経営陣への説明が必須ですよね。noteさんは上場企業として、市場への説明責任もあるでしょう。協賛の理由をどのように説明されていますか?この部分は難しく感じませんか?
今:
確かに難しいです。ソフトウェア企業は、人材が最大の資産ですから、採用やブランディングに投資するのは理にかなっています。しかし、予算は限られていますから、理解を得ながらも効果的にベストパフォーマンスを発揮する戦略を考える必要があります。
秋山:
協賛イベントの選定基準はありますか?
今:
はい、弊社が使用している技術スタックに関連するイベントへの協賛は、説明がしやすいですね。選定の一つの基準にはなっています。
秋山:
でも今回のYAPCはPerlがメインのイベントですが、noteさんは使っていないですよね?
今:
そうですね、Perlは使っていません。私個人はPerlの経験は長いのですが、会社としては違います。
秋山:
実は、私たちもPerlを使用していません。でも、お互いにYAPCに協賛しているじゃないですか?
ここが大事なポイントだと思うんですよね。今後もYPACにスポンサーし続けてくために、我々としてどう理論武装するのかっていうのが鍵になってくるのかなと。ちょっと返答しづらい話題ばっかりで申し訳ないんですけど(笑)
今:
ちょっと大きな声では言えないのですが、我々は今回のYAPCは小さいプランでの協賛なんです。なので、大きなコミットができているわけではありません。ただ、会社からの理解を得られつつ、細く長く続けていくという支援方法もありなのではないかと思っています。
秋山:
継続的な支援が大事ですよね。
今:
毎年の協賛活動を通じてXやnoteで社内外に発信をしていけば、誰かの頭の中には刷り込まれていくんじゃないかなって。
採用が止まっても、会社が潰れるわけではない
秋山:
協賛を細く長く続けていくという点に関して、我々は反省点があります。昨年、総合的な判断で開発部門の採用を一時停止していたことがありました。
今:
開発部門だけですか?
秋山:
はい、開発チームのみ一時的に採用を停止しました。しかし、「採用再開するぞ!」と腰を上げたときに予想以上の労力がかかりました。0か1でカチッと切り替えるよりも、0.1でも出力を続けていくほうが大事なんだなと痛感しました。
今:
寒い中でエンジンを再始動させるようなものですからね。採用はできるだけ継続していくことが重要だと思います。
秋山:
あと、会社として採用を停止すると、「その会社に問題があるのでは?」という憶測を呼ぶことがありますが、そんなことないですからね(笑)
私もそのような声に心を痛めましたが、スポンサー活動の停止などが会社の危機を意味するわけではありません。
今:
その通りですね。会社って色々ありますから(笑)
秋山:
事業には変数と制約が色々とありまして、プロダクトがうまくいっていても変数との掛け算によっては採用を止める場合もあるんですよね。
今:
そうですね、そのような状況は大いにありえますね。
現地にはチャンスが転がっている
秋山:
協賛に参加して良かったことはありますか?
今:
はい、2つあります。
まず一つ目は、社員間のコミュニケーションが活発になることです。当社は完全リモートで運営しており、日本全国にエンジニアがいます。協賛イベントを通じて集まる機会が「初めて会う」「初めて一緒に食事をする」などのきっかけになることがあります。
二つ目は、現地でしか得られないチャンスがあることです。例えば、RubyKaigiでは、Rubyの父、Matzが私たちのブースに訪れました。アンケートで「Ruby歴は?」と聞いたところ、「28年」と力強く回答してくれ、私たちもミーハー心でうれしかったです。Xでの反響も大きくてホクホクでした(笑)
行けば何か良いことが起こるというのが、現地ならではの魅力です。
秋山:
スポンサーをすることで、チャンスに向かうきっかけを作れるのはすばらしいですね。私たちの会社では、イベントを通じて技術広報の方が入社しました。「この人と一緒に働きたい」と思っていたら、向こうから声をかけてもらえました。これも現地での会話があったからこそなので、スポンサーする魅力だと感じました。
今:
ブースに訪れた人がカジュアル面談や面接に来てくれることもあるので、それらは直接的な手応えを感じられますね。
秋山:
あと、ブースに来てくれた方とちょっとでも議論ができるとうれしいですよね。
今:
それはありますね。同じイベントに出展している企業だと、技術的な課題が似ていることが多いので、共感し合えることも多いですし。
秋山:
登壇内容から新しい知見を得たり、議論から学びがあったりと、他社の知見が社内に蓄積されるのは貴重な機会ですね。
認知がなければ採用は始まらない
秋山:
協賛することは自社から理解されていますか?
今:
はい、理解は得られていると思います。デザイナーやPMも多くのイベントに参加しているので、エンジニアの協賛活動にも理解があるといっていいはずです。Helpfeelさんはどうですか?
秋山:
そもそも理解を深めていくことが課題だと感じています。当社はまだ上場していないので、経営管理が今後厳しくなると思っています。それに備えて、しっかりと説明する覚悟が必要になってきそうだなと思っています。
今:
そうですね、ノールックで承認がおりることはないですからね。
– イベントの協賛における採用の目的設定についてもお聞きしたいです。エンジニアイベントは楽しむ目的で来ている人も多いので、採用は少し距離があるのかなと思っています。
秋山:
そうですね、ビジネスモデルによって変わってくるのかなと思います。人材紹介会社や受託開発会社の場合は、人数がビジネスモデルに直結しているので、協賛が投資として判断されやすいです。その点、事業会社では、「優秀なエンジニアが必要」ということを因数分解して説明する必要があります。分解して社内に説明していくことで採用との距離を近づけるイメージかなと。
今:
イベント協賛やスポンサードはマス広告みたいな位置づけだと私は考えています。「この会社は求人している」とか「Rubyを使っている」などを参加者の方になんとなく覚えてもらえればいいかなと。その人たちが転職するときに弊社を思い出してくれたらいいなくらいの期待値です。会社の情報を深く掘っていくのはnoteを書いたりイベントをしたりで、協賛とは使い分けていくのがいいのかなと思います。
秋山:
知っていただくこと自体が大事ですよね。
今:
認知がないと始まらないですからね。
秋山:
わかるなぁ。うちの会社も『Nota』から『Helpfeel』に事業名が変わって以来、名前があまり知られていなかったのが悩みでした。しかし、スポンサーを始めてから「〇〇事業をやっているHelpfeelさんですよね」と言われるようになったのは効果を感じましたね。
今:
なにもない0の状態ではなく、少しずつの積み重ねが重要ですね。
秋山:
大きい協賛を1回だけ出すというよりは、ちゃんと継続的に「ここにいるよ!」というアプローチをこれからもしていきたいですね。
さらにアフタートークが公開予定です
YAPCでのランチセッションは20分でしたが、会場内のロビーでアフタートークを収録しました。
アフタートークは1時間にも及び、さらに飛び込み出演でBASE CTOの川口さんにも参加していただきました。音声と文章をそれぞれ公開するので、以下のアカウントをそれぞれフォローしてお待ちいただければと思います。