ニッチなキャリア戦略でエンジニアとして希少な存在へ - noteエンジニアインタビュー
エンジニアとしてのキャリア選択は、多種多様な道に別れます。コードを書き続ける人がもいれば、PMなどのマネージャー職に転身する人もいますし、起業してCEOになる人もいるでしょう。
そんな中で、noteエンジニアの露木さんは、「キャリアを細かく描かない」ことを信条としています。自身の挫折した経験から、特定の分野で勝つことをやめ、外部環境が変化してもパフォーマンスを発揮できるように努力や準備を欠かさないようにしているのです。
検索システムの開発やデータ基盤開発、レコメンドシステム開発など、大量のデータを扱ってきた露木さんは、「ニッチな存在になるからこそ希少性がでる」と語ります。
現在、noteのレコメンドシステムのエンジニア 兼 PMとして活躍する露木さんに、今までの経歴とニッチなキャリア戦略についてお聞きしました。
露木航平のプロフィール
大学卒業後、地図サービスの開発に従事したのち、2021年にnote株式会社に入社。データエンジニアとしてデータ基盤開発に携わったのち、検索・推薦分野でサーバサイドエンジニアを担当。
※ 以下、露木さんのインタビュー内容をライターが文章化して掲載
現在の仕事内容
noteエンジニアの露木航平です。
私はnoteのレコメンド(推薦)システムの開発チームで、エンジニア 兼 PMとして働いています。入社当時はデータ基盤チームのエンジニアとしてスタートし、その後、検索基盤のElasticsearch移行などを担当しました。検索基盤移行の作業はレコメンドチームと連携することが多かったため、移行終了後にそのままの流れでレコメンドチームに参加しました。ただ、もともと私は入社当時からレコメンド機能の開発に興味があったので、良いタイミングで参画できたと思っています。
また、今のPMポジションも自分から志願しています。noteの組織が拡大する中で、PMの人数が不足しており、マネージャー層とレコメンドチームのコミュニケーションが減少しており、すり合わせの機会が少なくなっていました。これらを解決するために、自分からPMを引き受ける決意をしました。また、note内の事情だけではなく、私自身のキャリアとしても、エンジニアリング以外の経験を積むのは良い影響があると考えているためです。
PMとエンジニアを兼任することで、今まで見えてこなかった課題が浮き彫りになってきました。例えば、レコメンドチームとしてのあり方です。MLは単発で機能を提供するのは簡単ですが、継続的に発展させて開発を続けていくのは非常に難しいと考えています。MLに限らない話ですが、機能開発において計画をうまく立てないと、A/Bテストをした後に、その結果を踏まえたブラッシュアップを行わなず、改善が滞ってしまうことがよく起こります。これらを解消するためにも、組織内でのML開発のサイクルを作り上げる必要があるなと。改善を続けるサイクルを作らないと、受託開発のようになってしまうので難しいところです。
また、私個人のPMの能力として、問題点や課題を見つけ出す能力がまだまだ不足しているなと感じています。私はPMとして、「現実的にできること」と「課題」を結びつけて、徐々に解決していくためのサイクルを作れるようになりたいです。
エンジニアになったキッカケ / noteに入社した経緯
大学時代にセキュリティエンジニアに憧れていて、セキュリティ関連の研究室に入りました。ただ、研究室に入って、すぐに自分が「この分野で勝つのは無理だ」と理解できました。セキュリティエンジニアって、たとえるならば理学部数学科みたいに、専門性の高い強い人たちが当たり前のようにたくさんいるんです。熱意も才能も非常に高く、その上で努力してきた人たちの中で、トップに立つのは難しいだろうなって。
ただ、逆に、その挫折をしたときに、「特定の分野で勝てないときはどうするか?」という問いを深く考えるようになりました。キャリアとしてニッチな戦略をとるクセがついたんです。これが今の私の考えの基礎にもなっています。
大学卒業をしてからは、地図サービス会社に入社して、検索機能の開発を担当していました。地図検索はデータ量が膨大で、数百万件のデータをユーザーの要求に合わせて提供することが求められます。開発は大変ではありましたが、こういった膨大なデータを扱うことが私は当時から好きだったので、適切なデータ処理をさせていくことに喜びを感じていました。
また、配属された当初は気付かなかったのですが、仕事を進めるうちに検索エンジニアというのは市場において希少性が高いことがわかりました。ニッチな戦略を好む自分にはぴったりのポジションだったのです。
地図サービスの検索開発は楽しく、自分に向いていたのですが、数年やったところである程度の達成感が得られました。大きな開発の波もなくなり、後進の育成もできている状態で、ほとんど思い残すことはありませんでした。そこで、新たなチャレンジを求めて検索開発から離れることを決心しました。
いくつかの企業を受けていたのですが、noteのエンジニアと話をしていく中で、「この会社なら幅広い開発にチャレンジできる」と感じたため、noteに入社を決めました。
入社して感じたこと
noteに入社してみて最初に感じたのは、「大学の研究室に似た雰囲気があるな」という点です。年齢層が高めであるためか、オフィス全体が落ち着いていて静かでした。みんなが開発に集中しているので、私にとっては過ごしやすい環境です。
開発面で言えば、データのおもしろさです。noteには何百万件もの多様な作品が存在しています。この大量のデータをどのように扱うかを考えるのは、入社してデータ基盤チームに配属されたときに楽しく感じました。実務で扱うデータは日々増加していくため、再処理の方法やエラーハンドリングの工夫が必要です。冗長性や可用性を担保し、データが壊れないよう注意を払うことも重要な課題です。こういった基盤をつくることは、検索開発とはまた違ったおもしろさがありました。
今後やりたいこと
私はキャリアについてあまり計画的に考えることはしていません。計画を立ててもその通りには進まないことが多いため、どんな状況になっても良いパフォーマンスが発揮できるように準備や努力を欠かさないことに重きを置いています。その方が結果として、良いキャリアが築けるのではないかと考えています。キャリアを振り返ってみたときに、後から「良いとこどり」で結びつけてこじつけてもいいと思っています。また、自分は特定の分野にフルベットして成功するタイプではないと思っているので、外部環境の変化に対して脆弱にならないようなポジショニングをするように心掛けています。
これらの戦略の考え方は、大学時代にセキュリティエンジニアを目指して挫折した経験から来ています。ニッチな戦略をとりつつ、探索的に物事を決めていく感覚を大切にしています。特定の分野に特化することはできないので、培ってきた能力と能力をかけ合わせていくことが、私自身の強みになり、市場でも希少なエンジニアになっていくと考えています。noteに入社してからも、大量のデータを扱うデータインフラチームでの経験と、実務のアプリケーション開発ができたことは貴重な経験になっています。
最後に、個人的なキャリアとは別に、noteエンジニアとして成し遂げたい目標もあります。大きく言ってしまえば、新鮮な驚きを提供し続けられるレコメンド機能を作り上げることです。
今の世の中の主流のレコメンドシステムは持続性に欠けており、レコメンドから得られる満足度に限界効用逓減の法則のような状況が見られます。限界効用逓減の法則は経済学の用語で、ざっくり言うと満足度がだんだんと減っていくことを表した法則です。よく使われるたとえですが、1杯目のビールが最高に美味しくても、2杯目3杯目からはその満足度は低下していき、飲めば飲むほど満足度が減っていく……というようなものです。今のレコメンドはこの法則に似ていて、ビールの例でいえば、ビールが好きな人にはビールばかり紹介されるというパターンになっています。同じビールをずっと紹介されるので、レコメンドによる幸福が減っている状態です。たまにはフルーツリキュールを勧めてみるとか、そういうランダム性が幸福を増やすと思っていますし、持続性もあると思っています。
私は、もっと「知らなかったけれどこの書き手いいじゃん!」と思わせるようなレコメンドを増やしたいと考えています。たとえば、noteで言えば岸田奈美さんのような書き手は既存のレコメンドから出てきにくい方です。そして、既存のレコメンドでは出てきにくいけれど面白い書き手がたくさんいることこそがnoteの強みです。そういった方たちを発掘して、プッシュしていくことに我々の意義があります。
これらの目標を達成するのは容易なことではありませんが、やりがいのある挑戦です。現状では手が足りない状態であり、PMとして私もまだまだ模索中ですが、少しずつ前進していきたいと思っています。
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