noteエンジニアが2024年に挑戦する、重要課題9選
noteは2014年のサービス開始から成長をとげ、月間の記事投稿数が117万件(※)にもなりました。会社としては2022年12月に東証グロース市場への上場をし、2023年11月にはAI事業を加速させるために子会社『note AI creative株式会社』を設立しました。※2023年9月時点
noteは成長を続けて完成に近づいている、と思われるかもしれませんが、当社としてはようやく第一章に幕をとじ、スタートラインに立った感覚です。
「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」というミッションを達成するために、私たちは次のフェーズに進む必要があります。noteの第二章は始まったばかりです。
高い目標を達成していくために、2024年も挑戦し続けなければなりません。この記事ではnoteエンジニアが取り組むべき目標や課題について紹介していきます。
▲2023年の課題記事
1:バックエンドシステムの堅牢性や開発効率の向上、パフォーマンスの改善
noteのサーバーサイドはRuby on Rails(以下、Rails)で開発しています。安定的な品質を保つため、Ruby3とRails7.0へのアップグレードを実施しました。
また、2023年は多くの機能が実装された結果、2022年の同時期比でコードベースが3割以上増加しました。複雑化していくコードをコントロールするためにも、モジュラモノリス化を引き続き進めています。Packwerkを利用したパッケージ分割が進行中で、全体の45%までモジュールへの切り出しが完了しました。まだアプリケーション自体の切り出しは行っていませんが、来年も適切な粒度・依存のドメイン境界を見極めていきます。
そして、より安定的な運用ができるように、来年はRuby YJITの有効化およびRuby3.3へのアップグレードやAurora MySQL 3へのアップグレードを予定しています。PV数も増加し、データ量も右肩上がりのため、急激なアクセス負荷にも耐えられるような安定運用をめざしていきます。
課題 / 施策
モノリシックなRailsコードのモジュラー化
DBなどのミドルウェアの恒常的なバージョンアップ
開発生産性向上のためのツールチェイン開発やCI/CDの改善
高速なAPIパフォーマンスを安定して提供する
2: 表示管理や制御の最適化により、コンテンツ流通をなめらかにする
今年もnoteでは多くのカテゴリーや用途でのご利用をいただき、会員数は前年比の1.3倍になり、noteへの月間の投稿数は2023年9月時点で約117万件にもなりました。今年はTBSのがっちりマンデー!! にも取り上げていただき、noteでの収益化の機会も全国にご紹介することができました。
しかし、noteと読者のタッチポイントの最適化には改善余地がたくさんあります。2023年もリコメンデーションアルゴリズムやUI、運用の改善に重点的に取り組み、書いた記事が届くべき読者に適切に届くように工夫を積み重ねてきました。
来年も、このコンテンツ流通の課題に重点的に取り組みます。MediaKitと呼んでいるプロジェクトでは、ターゲティングやABテストなど複雑な表示制御やコンテンツ表示をワンストップ・ノーデプロイで管理できるCMSシステムを構築しています。機械学習を利用したリコメンド・検索基盤にもかんたんに統合できるようになっています。2023年度には一部のリリースが完了しました。来年は本格的にさまざまな画面に展開する予定です。
課題 / 施策
書かれたnote記事が読んでもらえる可能性が高い読者に届く
多様な種類・目的のページをかんたんに構成、制御できる
記事表示画面などの更新にデプロイや調整を不要にして、エンジニアやPMの負荷を減らす
機械学習をもちいたリコメンデーションを効果的に適用する
3: AI/LLMを利用した業務効率化やサービス展開の拡大
2023年はChatGPTに代表される生成AIが話題をさらった一年でした。はたらき方やサービスのあり方を激変させる可能性を秘めた技術として、さまざまなユースケースでの利用が試みられました。
noteでは初期から積極的に生成AIの可能性を探求してきました。2月にはAIアシスタント(β)を発表しました。Azure OpenAI Serviceを活用した社内専用アプリ「note AI」も開発。日々、社員がSlackやChrome拡張を通じてGPT4を利用する様子は、おなじみの光景です。
12月には、生成AIをはじめとしたAI/LLMに関する開発や業務効率化をリードするための専任子会社として note AI creative社を設立。3,740万(2023年8月末時点)を超える膨大なコンテンツとAI関連技術を活かし、新規事業の立ち上げやnoteの開発を加速していきます。AI/LLMの本格的な普及フェーズに移行すると予想される2024年以降に向けて、準備を進めていきます。
課題 / 施策
note運営に関する業務を分析しAI/LLMで効率化
社内GPTのnote AIの開発や、社内でのLLM活用の支援
noteのサービスで利用するさまざまなMLワークロードの開発
AI/LLMを活用した基盤技術の開発・新規プロダクトの事業化
4:フロントエンドのリアーキテクチャによる高速で安定したサービスの提供
noteのフロントエンドは主にNuxt.jsで実装されていますが、コードが肥大化し、多くの機能が密結合した状態になっています。密結合による問題を解決するとともに、Next.jsによるフロントエンドのリアーキテクチャを実施しています。
現在は、エディタやアカウント設定、通知設定などの一部の機能をNext.jsに移行しています。昨年度までに小さな機能の移行を行って知見が溜まってきたので、今年度は大きな機能の移行も予定しています。App RouterやReact Server Componentsなどの技術も採用し、より速く安定したサービスを提供できる予定です。
Next.jsの開発を加速させるために、React製コンポーネントライブラリ『note UI』の開発に取り組んでいます。リアーキテクチャに合わせて、デザインシステムチームがリードして開発をしていきます。
また、noteではすべてのクリエイターが創作をできる環境を整するために、アクセシビリティ向上にも力を入れています。今年度はさらに全社員を巻き込んでいけるように、文化として浸透させていきます。
課題 / 施策
アプリケーションのNext.js移行
恒常的なアクセシビリティ向上
React製コンポーネントライブラリnote UIの開発
5:データの収集や加工が高速にできる基盤の改善をし、全社員がデータを扱える文化の定着へ
大量のデータを保存 / 処理するために、Snowflakeによる運用を行っています。Reverse ETLの実装も行い、Lookerの導入によってSQLを書かずにデータを可視化できるようになりました。
今年度はより広くデータ活用をしていくために、RDSのデータのリアルタイムでの取得やクリックの取得ログ基盤の開発などを構想しています。また、Lookerはまだ一部の人しか使っていないため、社内で使用されることが当たり前の状態にしていきたいと思っています。
さらに、ChatGPTの活用もしていく予定です。問い合わせ窓口の作成やデータ分析結果のサマライズなどを自動で行えるように進めていきます。
課題 / 施策
RDSのデータのリアルタイムに取り込む
ETLツール導入
ChatGPTの活用
記事内クリックを計測できるようにする
Lookerの浸透
6:ウェブと違ったアプリ独自の体験をクリエイターに提供
2022年までは技術的負債の解消に尽力していましたが、2023年にはアプリ独自の機能をリリースできるような体制になりました。ウィジェットの拡充やクリエイターの更新プッシュ通知機能、ローカル下書き(iOSのみ)などをリリースできました。
今後もアプリの機能はパワーアップさせていきます。たとえば、noteポイントを使ってアプリでの記事購入もしていただけるように計画しています。
課題 / 施策
Swift 6 のための Actor や Sendable など Swift Concurrency 対応(iOS)
基盤強化に向けたJetpackComposeへの移行(Android)
JetpackComposeに最適化したリアーキテクチャ(Android)
UI/UXをアプリならではという観点から改善しユーザー体験を向上させる(iOS/Android)
7:安定したサービス提供に加え、新規インフラの構築が可能な体制の確立
昨年度、EKSへの完全移行を行い、同時にインフラ全体の刷新も行いました。クラウドネイティブなインフラ環境になったことで、これまでよりもできることの幅が広がりました。逆を言えば、やりたいことが増えた状態だとも言えます。直近では、リモート開発環境を即座に作成できる基盤などを開発できました。
また、オートスケーリングの仕組みの拡張やSIEMの構築などのインフラ改善に加えて、フロントエンドのNext.js移行や大型リリースのサポートなどもしていきます。他にも、昨年に引き続きコスト最適化の施策にも力を入れていく予定です。
そして、note AI creativeを設立したことで、新たなインフラを構築する可能性もあります。新規サービスや新規事業の対応にも立ち回れるように、ゼロトラストを念頭におきセキュリティに最大限の配慮をしつつ、柔軟に対応する必要があるでしょう。
2023年までが守りの体制だとすれば、2024年からは攻めの姿勢で開発を進めていくと言えるのかもしれません。
課題 / 施策
フロントエンドのNext.js移行サポート
ゼロトラスト構成の実現
新規事業の立ち上げや運用のサポート
コスト最適化施策
8:noteで収入が得られるクリエイター経済圏の強化
インターネットの発達により表現の場が増え、現在はだれもがコンテンツや商品をつくり、公開することが当たり前になりました。すべての人間がクリエイターだと言えるでしょう。
だれもがクリエイターの時代で、創作を通して豊かになる経済圏をnoteはめざしています。クリエイターのインフラになることが、noteの目標です。
来年はnoteとして初のポイント機能がリリースされます。noteにさらに強固なエコシステムが形成されることで、クリエイターの作品がより売れやすくなる環境が整います。ポイント機能のリリースは、noteの成長における重要な一手です。
有料記事や定期購読マガジン、メンバーシップなど、クリエイターがnoteで収益を得やすくなるためのカイゼンも引き続き行っていきます。
課題 / 施策
ポイント機能のリリース
noteだけで生活ができるように経済圏の強化
有料記事や定期購読マガジンが売り買いしやすい機能の開発
9: 法人向け機能の強化に伴う、集客率の上昇
主に法人の方が利用されている高機能プランnote proは、サービススタート当初から企業がユーザーとつながって関係を深めるお手伝いをしています。note proの機能としても、独自ドメインの設定やアナリティクス、メンバー権限管理機能、note AIアシスタント(β)の使い放題など、多岐にわたります。
2023年度では、独自ドメイン基盤の移行やチェックツールの改善により、大幅なコストカットに成功しました。オンボーディングの充実や請求書払いの改善を行ったことで利便性が向上し、運用コストを減らすことができました。
2024年度はさらに自由度が向上するように、カスタマイズ機能の開発や分析機能の強化をし、集客率が向上する提案をしていきます。機能強化に加えて、独自ドメイン配信の改善やZuoraとの連携強化など、基盤強化をしていくことも重要な課題です。技術的負債を解消しつつ、お客様と直接やりとりするサポートチームの負担を減らしていくことで、今よりも密な支援が可能になると考えています。
課題 / 施策
カスタマイズ機能の開発
アナリティクスの強化
独自ドメイン配信基盤の改善
Zuoraとの連携強化
だれもが創作を続けられる世界を一緒につくりませんか?
2024年の課題として挙げたとおり、noteが成長するためには、まだまだ立ち向かうべき課題がたくさんあります。創作がしやすい世界をつくるnoteの第二章に興味がある方はぜひ一緒につくりあげていきましょう。
▲さらに技術記事が読みたい方はこちら